観劇感想『農業少女』 2018.10.28(sun)
あらすじ『日本の西の果てに農業という駅がある。その傍らで少女が言った。「東京に行こうかな。のうぎょう、とうぎょう、そんなにコトバの響きは変わらないのに、東京は農業から遠い」少女は東京行きの切符を買った。』(パンフレット記載抜粋)
舞台の形が、まるでモデルが歩くランウェイのような縦長で、普段見るような舞台とは異なった目を惹くような造りになっている。
何故そのような形になっているのか、物語を観ると納得する。電車、線路、電話、稲を植える流れ、そう言ったものを表現するときに、あの形は絶妙だと感じた。
農家の娘として生まれたからと、農業だけして一生を終える。ということに納得出来なかったももこは東京へと向かう。AVに出演して食いつなぎ、お互いに都合のいい契約をして山本の家に転がり込み、都罪(つつみ)に利用され、「農業少女」という米を作る為に故郷に戻る。
山本はももこに対して包容力を持つと同時に嫉妬心を抱き、ももこは都罪に信仰に近いような恋を抱き、ももこから尊敬の眼差しを受ける都罪はももこや引きこもりの少年少女を利用することしか考えていないと、一方的で不毛な関係で、ほとんど救いが無い。
シーンによって笑える意味でおかしな要素が加わっているため、全体を通して観たら多少緩和されるものの、とても現実的で気持ちが悪い物語。
役者は面白く綺麗で、嫌味な言い方、振る舞いは見事だが、性根の悪い人間の気持ち悪さや醜さがあまり感じられなかった。そこまで表現されてしまったら何も書くことなど無くなるが、そういう要素が加わったらいい意味でもっと、ゾッとするだろうなと感じた。
ラストのシーンで、夕日と血が重なり橙に近い赤の照明がももこと稲たちを照らすのがとても美しかった。
「農業少女」を求める声が仮にあったとしても、ももこの耳にはもう二度と聞こえない。そこからひたすら絶望の道へと転がり込むのか、自力で立ち上がり進むのか。できれば後者であってほしいと想う。