観劇感想『四月になれば彼女は』 2018.2.25(sun)

 

役者たちが舞台上に集まり、まるでこのまま終わるかのような台詞や動作から、この物語が始まりました。

 

簡単なあらすじ - スポーツ新聞記者・のぞみと妹・あきらのもとへ15年ぶりに母・麻子が帰ってくる。しかし、麻子に対してのぞみは冷たく、あきらは期待することを諦めていた。一方同時期に、のぞみは社会人ラグビーの監督・堀口が暴力事件を起こしたと聞く。堀口が事件を起こしたことを信じられないのぞみは堀口と会い事情を聞くが、堀口は非を認める。なんとかして堀口の役に立ちたいと思ったのぞみは、とある決心をする。-

この物語は麻子とのぞみ・あきら達の他に、堀口と元妻のカンナが息子・健太郎をどちらが引き取るかなどについて言い争う場面もあり、2つの家族の問題が同時進行しながら徐々に交わって、それぞれ変化していきます。

 

個人的に好きなシーンは、学校であきらが健太郎に自らの思い出を語るところです。

幼い頃あきらは「入学式には帰ってくる」と言った麻子の言葉を信じて放課後の学校でひたすら待つ。約束通り母親は迎えに来てくれる、けれどそれはいつの間にか眠っていたあきらの夢の中の出来事で、実際麻子は迎えにくるどころか日本に帰って来られなかった。

眠りから覚めた瞬間、自分の母親にそれを望むのは無理な願いなのだと幼い頃に悟ってしまっては、期待することを恐れ、トラウマにもなるだろうなと感じました。

その他の役も(一部を除いて)個々に抱いている想いは複雑で、一見空気が重くなりそうなテーマであるにも関わらず、そこは役者さんたちの力でシリアスになり過ぎないよう描かれているので、気持ちが沈むこともなく、観やすかったです。他、照明や音響、懐中電灯の明かりに桜の花びら等、役者を引き立たせる部分がとても綺麗で素敵でした。

 

終盤でそれぞれの問題が一つずつ解決していき、空港で麻子を見送る最後のシーン。

麻子が飛行機に乗ったあとにのぞみが「忘れてた。一番言いたかったこと。あの人に。」と呟き、そのあとに続く「おかえり」は、麻子の帰りを待っていたのぞみが、この15年間麻子に伝えたくても伝えられなかった言葉で、寧ろ言うことを諦めていた言葉だったのではないかと思います。

意地を張ることなく素直に出たその言葉がきっかけになって、近いうちに今度はのぞみが麻子の元へ会いにいくのではないかと思わせる、そんな幸せな終わり方でした。