観劇感想『忘れられた荒野』 2018.4.22(sun)
『ガラスの仮面』の原作者 美内すずえ氏がオーナーを務めるカンパニー『アカル塾(AKARU PROJECT)』と、岡山県ゆかりの若い演劇人を発掘・支援し、新しい演劇シーンをともに創り出そうとする創作集団『Rita Project』がコラボした作品を観てきました。
あらすじは、『1934年クリスマス・イブ。ロンドン。若き人類学者スチュワートとその友人たちは、カルパチアの山中で見つけられた、狼に育てられた少女「ジェーン」を「人間」にすることができるかという議論で白熱していた。「人間」に生まれ変わらせるというスチュワートに友人たちは全員、不可能と嘲笑。かくして、1万ポンド、学者の地位、そして、美しい婚約者を賭けてのスチュワートの困難なチャレンジが始まる。期限は5年。果たして狼少女は「荒野」を忘れて「人間」になることができるのか?』(パンフレット記載抜粋)
この作品は『ガラスの仮面』の中で描かれる作中劇で、初演は1994年。ちょうど私が生まれた年なので観ることなど到底できるわけもなく、物心ついて初めて漫画で読んだ時は、実写化していたということを知りませんでした。そのため今回、岡山県でミュージカル化すると情報を得た時は、期待と不安を込めてチケットを予約しました。
結果的に、観に行って正解でした。
どの役も素晴らしかったのですが、やはりジェーンが一番印象的で、北島マヤが演じるジェーンそのまま漫画から出てきたようでした。
ぞっとするような狼の鳴き声から始まり、四つ足で駆ける様、スチュワートや他の人間に本気で抵抗する姿、言葉という概念が生まれていく様子…そんな姿から除々に人間らしくなっていく経過があまりにも自然で、期待をはるかに上回る狼少女でした。
また、内容が全体的に明るいものとは言えない作品なのですが、歌を混ぜてコミカルな部分を演出していたので、140分の作品でも観やすかったと思います。
そして何より、漫画では盛り上がっている部分のみの描写で、終わりがきちんと描かれていなかった『忘れられた荒野』が、舞台ではきちんと終わりまでが描かれていて、その内容を知ることができて嬉しかったです。
狼に育てられ、狼と共に生き、死んでいく運命だったかもしれないジェーンを、再び人間として生かそうとしたスチュワート。ジェーンはそれで幸せだったのかどうかは、私にはわかりません。けれど、スチュワートが、何が彼女にとって一番幸せなのかをひたすら悩み、辿り着いたあの結末がきっと最良だったと信じたい。そして、その結末をこの目で観られたことに、ただただ感無量です。