観劇感想『風習』 2018.7.1(sun)
『僕は大学進学をきっかけに愛媛県松山市で一人暮らしを始めました。それから10年が経ち、28歳になって実家に帰ることになりました。実家は高知県四万十市です。四万十市は、中村市と西土佐村が合併してできた市です。僕は西土佐村の方の出身です。自然が豊かで、山も川も、夜には星もすごく綺麗で、というか自然しかなくて、他に何があるんだろうって、気になったので、調べました。その時の話です。』
舞台には3人の女優が横に立ち並ぶ。インターホンが鳴り手紙が届き、その手紙を受け取った彼女たちはそわそわとその手紙を開封していく。その可愛らしい仕草から、想い人からの手紙かな?と一瞬思うが、書かれていた内容は佐々木氏の生い立ちから今現在までの物語だった。女優3人が実際に手紙を読みながら、身振り手振り、時に動きながら佐々木氏という人物像を紹介していく。
佐々木氏は自分の故郷を何も無い場所、と称し、村で育ったことを少しコンプレックスに思っていたと手紙の中で胸の内を明かす。コンビニもインターネットも当たり前のようにある環境で育った私は、その想いを想像するしかできないが、他の人が当たり前のように持っている(手に入れられる)ものを自分が持っていない歯痒さ、みたいなものがあったのだろうかと感じた。
去年の12月をきっかけに、自分が本当に創りたい物を探すため原点回帰、実家に戻って見直すことで、とある人物と出会うことになる。
そして後半、『タイラさん』という老人の話へと移り変わっていく。その際女優3人は手紙を置き、タイラさん・佐々木氏・佐々木氏の母、と役割を持って動くようになる。
会えばいつも外で火をくべているタイラさん。火は神聖なものだという想いを持っているような振る舞い。ある日は自分の母親の日本人形と妹のオルゴール、ある日は犬の骨(のようなもの)を火でくべるタイラさん。浄化や弔いを行っているつもりなのか、あるいはその土地ならではの風習なのか。佐々木氏にとってその土地の伝承や伝統みたいなものよりも、身近な老人の方が理解し難い生き物なのかもしれない。だから今回、この作品の題材として取り上げたのだと思う。
最後は、施設に預けていると言っていた自分の母親が…と、途中でホラーが好きだと匂わせていた佐々木氏らしい結末を迎えて、幕が下りた。