観劇感想『この道はいつか来た道』 2018.8.17(fri)

 

 電柱とポリバケツが置かれた道。そこで出会う男女の物語。

 

 前半はコミカルなやりとりで、くすっと笑える要素が含まれながら物語が流れていくが、中盤、男性が取り出さたナイフで女性が自らの手首を(厳密には違うが)切ろうとし「やめろ!」と男性が制した声で、一気に空気が変わるのを肌で感じた。

そこから、女性のふんわりとした物言いは、力強くはっきりとした言い方に変わり、男性は制する際に声を荒げただけで、その時以外は優しく微笑んでいる。

 

 初めは、男性の笑みに特に引っかかることもなかったけれど、終盤に近付き物語の内容が見え始めた頃から、男性の微笑みがまるで、悲しさややりきれない思いを必死に胡麻化しているように見えて、なんだか切なくなった。

 

 男女は、『ホスピタル』という場所から抜け出していた。

恐らく『ホスピタル』は、末期患者が送られる施設か何かではないかと二人の会話の中から想像できた。痛みを伴いながら逝きたいと願う男女。痛みを伴わない死など死ではない、と二人は言う。

 死ぬまでに7回出会い結婚した男女。記憶はその都度忘れているのかないのか。しかし、持ち物を把握(箸は持っているでしょ?という確信的な言葉とか)していることから、忘れたふりを繰り返していたのか。

 何故、その行為を繰り返していたのか。その行為の意味がなんだったのかまでは、私にはわからなかった。一度結ばれ、そのまま死を待つのでは満足できなかったのだろうか。それとも、満足したくなかったのだろうか。何度でもあなたを好きになりますよ、と証明したかったのだろうか。

 

 最終的に、痛みとは異なる苦しみを感じながら、雪の舞う中で二人は共に逝く。先に進み、待ち、出会うという繰り返しにやっと終わりを見つけることができた。

 まるで蝋燭の灯が徐々に小さくなっていくのを観ているような終わり方が、とても美しく感じた。