観劇感想『そっちは苦い川だから / ボツ!東京くらげ男』 2018.9.10(mon)

 

 札幌ハムプロジェクトさんのワゴン旅芝居。札幌本部と東京支部の作品2本立ての公演で、1つ目の作品は天野ジロ氏の一人芝居『そっちは苦い川だから』。

 あらすじは、『六千年前。世界は苦い川に囲まれているとみんな信じていました。行く必要が無いところを、誰かが危険を冒して越えたのだな。という妄想をしている100均のレジ打ち山崎(32)の話。』(パンフレット記載抜粋)

 

 テンポや間やコロコロと変わる声のトーン、そういうものが総括して生み出された空気感がとても洗練されていて、観ている間終始笑っていました。個人的には「米/パン」のくだりと、G線上のアリアにオリジナルの歌詞をのせて歌っていたシーンがツボでした。

 物語の合間、途中までは納得する経過なのに次の瞬間には「何故その選択をした」と思わせる方向へと向かう突拍子もない部分も面白かったです。

 

 山崎が「あっち側の人間とこっち側の人間」と、他者と自分を比較する際に何度か発する台詞があるが、それは例えば、内向的な者と外交的な者、リア充とオタク、運動部と文化部みたいな、交わりがたい人と人を指しているようで、妄想の中の「川」がそういうものの境界線を示しているかなと観ていて感じました。

 

 

 2つ目の作品は傍嶋史紀氏と中江聡氏の二人芝居『ボツ!東京くらげ男』。

あらすじは、『三畳一間に上京してきた漫画家志望・北島ハル(28)。開かずの押し入れから漫画の主人公「東京くらげ男」が現れた。「遅すぎるなんて誰が言った?」と、彼はキメ台詞を言うが…』(パンフレット記載抜粋)

 

 台詞を敢えて言葉としてではなく文字で表現する部分があって斬新だな、というのが第一印象でした。漫画で用いるような効果を演劇にも取り入れていて、演劇は多種多様であると改めて感じた作品です。

 

 開かずの間の向こう側から初めてくらげ男が出てくる際の登場の仕方が好きで、出会ってから始まる役者二人のリズムのいい掛け合いが心地よくて、約1時間があっという間でした。

 

 くらげ男の独特な喋り方やしぐさから対人慣れしていない空気が漏れ出していて、凄く人と関わることに関して勉強しているのにいざ実践するとなるともどかしくなっている様は、気づけば胸の内で頑張れとエールを送っていました。

 北島もくらげ男もただただ自分を理解してくれる人を求めていて、ある種似た者同士の二人の距離が少しずつ縮まっていく流れは、観ていて心が和みました。

 

 創ることに対しての苦しみや面白さや葛藤は実際に創ったことのある人にしかわからないことで、そういう方々が強く共感するんだろうなと思う物語でした。