観劇感想『髪をかきあげる』 2018.9.29(sat)

 

 あらすじ『自らが決めた門限で恋人を追い返すトモヨ。一人の部屋で「どうして帰るんだ、バカ」と呟く。そんなトモヨに新しい恋が訪れる。その相手、職場の先輩はこうトモヨに問いかける。「心のどこかに空白があるでしょ。」すれ違う人々の孤独を描いた、第40回岸田國士戯曲賞受賞作品。』(フライヤー記載抜粋)

 舞台上には上手奥から下手手前の斜めにかけて橋のような道があり下には川が流れている。4か所に机があり、それぞれトモヨの部屋、中川の部屋、トモヨの職場、駅前の喫茶店と分かれている。

 

 感謝されたい、好きだと言われたい、自分と関わって幸せだと思ってほしい、必要とされたい。それらは「自分」と「自分を理解しようとしてくれる(好いてくれる)他人」がいて初めて沸きあがる感情且つ成立する関係で、誰もが等しく得られるものではないと思う。

けど、「自分を理解しようとしてくれる他人」がそばにいることが当然になってくると、欲が増し有難みが薄れ麻痺して、時にはトモヨのような捻くれた行動を移してしまうこともあるなと、少し共感してしまった。

 

 門限という制約をかけた上で自分を求めてくれるか恋人を試し、職場の先輩に求められたらその人の望まれた姿になろうとする。たった一言自らが望む言葉を発せばいいのに、それをしない(もしくはできない)不器用さと臆病さが愛おしいなと思わせる人間性を持った女性、というのがトモヨに対する印象で、そんなトモヨを演じ表現する女優の空気感が、個人的には好きでした。

 

 橋の上でチャーミングなやり取りをするご夫婦は、子供を亡くしてから仲良くなったとトモヨに教える。何とも生々しい事情で、けど、悔やみ続けるのでは無くなんとか前に進もうとしている夫婦を描いているこの物語が、希望を残していてどこかほっとしました。

 

 私もどちらかと言えば受動的な人間の為か、トモヨ自身に共感できる部分や同族嫌悪的な部分があったりしたものの、空白の部分を他人に色を決めてもらって塗ってもらうのを待つよりも、自分で色を決めて塗りつぶしていけるようになりたいなと、この作品を観終わった後に想いました。