観劇感想『10万年トランク』 2018.12.7(fri)

 

 島根県雲南市を拠点に活動されている劇団ハタチ族の代表・西藤将人氏が、現在全国47都道府県ワンマンツアーを開催している。

 

 今年の7月にパッチワークス主催で開催された「積集合」というオムニバス公演の中で【チンピラの物語】と【眠れない軍隊の男の物語】の2つの物語を西藤氏は演じており、今回は新しい3つの物語をトランクに詰め、松山市へ赴いて下さった。

 トランク、トレンチコート、帽子という身軽さは変わらず、音楽は無く照明は持参のライト1つのみ。「このトランクを開けたら物語が始まりますよー」と緩く発していた言葉や空気は、開けた途端にピシッと引き締まり空気はガラッと変わる。

 

 1つ目は【妻に捨てられた夫の物語】。

 自分は普通の男で、普通の人生だと独り言のように話す男。そんな自分に嫌気が指したのか、一度だけ男は浮気をする。ある原因によって男の浮気は見事にバレるが、その時妻は…

 思い込みや言葉の足りなさからのすれ違い。無条件で他人は他人を愛してなんかくれない残酷な事実と、事実を知るきっかけ。そして知ったことにより変わろうとする前に阻まれてしまうという、救いのない物語。けど、世の中にはこんなことが沢山溢れているんだろうと、抗いたい気持ちと共感がぐちゃぐちゃになる想いを抱いた。

 

 2つ目は【路上の引きこもりの物語】。

 路上という解放感溢れる言葉のあとに続く、引きこもりという閉鎖空間を思わせる言葉の成り立ちの面白さ。そこに行けば会えるだろうと大阪の西成に棲む者をモデルにした物語。

 西藤氏が演じる人物はとてもチャーミングであったが、過去に一度だけあの近辺に泊まったことがあり二度と一人では行かないようにしようと誓った場所であることを、物語を観て思い出していた。

 

 最後は【さすらい美容師の物語】。

 西藤氏はこのような演技もできるのか、と素直に驚いた作品。あちらの路線を観られるとは正直思ってもみなかった。あの場所では確かに不謹慎で、今彼ら彼女らが望んでいるのはそんなことではなく、生に直結するものなのだろう。

 けど、恐らくあの美容師は何もしないでただ過ぎることが耐えられなく、自分にできることは?という問に対して出た答えがあの行動で、その尊さが愛おしい物語であった。