観劇感想『微熱ガーデン』 2019.10.30(wed)

 

 『とある地方の寂れた町。結のアパートは町の真ん中からさらに離れたところにある。鉢植えばかりになった小さな和室にももう慣れた。慣れたというより違和感に悩む余裕がなかった。種まきから収穫まで淡々と、けれども抜かりなく育てる日々。大学の授業も抜かりなくこなす日々。そうしてすべてにおいて抜かりなくやっていたはずなのに、いつの間にか取り返しがつかないことになっていると気づいたある日。空は曇天の冬、乾いた田んぼ、つい口ずさんでしまったジングルベル。』(フライヤー記載抜粋)

 

 舞台中央には長机が3つと15個のバケツに植えられた植物、それから植物を育てるのに必要な光が吊るされていた。

 節約の為にと大学から1時間はある部屋に借りて住む結(ゆい)。その部屋には、1鉢で家賃1か月分が支払えるほどの価値がある違法植物がずらりと並ぶ。匂い付着対策として室内で着用するレインコート。警察に怯える日々。異様な光景が広がる部屋だが、結とリナの年相応の会話やあどけなさは残ったままで、それが更に異質な空間にさせる。時折、真面目に話しているが故にクスっと笑ってしまうような台詞ややりとりもあって面白かった。

 

 「普通の大学生に戻れば良い」とリナが放った言葉に対して「普通の大学生になる為に始めた」と言った結の言葉の重みが観終わってもまだ残る。

 手っ取り早く学費や生活費を稼ぎたいという弱みに付け入られて、悪い大人にいいように利用されて。自分達がそうすると選んでしまったとはいえ、目の前に吊るされたおいしい話につられてしまうほど彼女たちは困窮していた。レジ打ちのバイトなんかでは到底追い付かない現実、未来に対する希望の光が小さすぎて何をどうしたらいいのかと、そういう苦難や葛藤が舞台上からダイレクトに伝わる。

 

 人の辛さの度合いなど人によって異なるしそれは決して理解し合えない、けれどきっと死ぬほどのことではないしやり直せる。彼女たちにまた、笑い合っていたあの夏の頃のような時間が訪れればいいと感じた。