観劇感想『カサネノ色ドリ』 2019.8.31(sat)

 

 『突然10年ぶりに帰ってきた拓也。驚きながらも再会を喜ぶ姉の美代子と、近所に住む幸子。三人はお互いに違和感を覚えながらも、おばあちゃんの思い出話に盛り上がる。家には折り鶴と着物の女、そして千代紙…』(パンフレット記載抜粋)

 

 舞台装置は少し上手寄りにおよそ10畳の畳の部屋が広がり、拓也と美代子の先祖の仏壇やちゃぶ台、座布団、少し散乱した洗濯物やチラシなど生活感が滲み出ている。

 訳あって実家に帰ってきた拓也の前に、少女にも成人にも見える不思議な女性が着物を纏い現れるが、拓也以外の美代子や幸子には認識できない。恐らくだが、祖母の過去の姿を幽霊で、何故か拓也にだけ見える・話せるようになっていた。

 

 問題は何故、拓也の前に祖母が現れたのか。そもそも拓也が帰ってきたのは自分が立ち上げた福祉関係の会社が成り立たなくなり次の職場も見つからず途方に暮れていたから。数十年ぶりに実家に帰ってきたのも、せめて自分の命と引き換えに少しでも保険金を残し、姉の美代子の手元にいくようにしたかったから。その為に必要な書類を置いてそっと帰るはずだった。

だがそこで、帰ろうとする拓也を阻むように祖母が現れる。案の定美代子に見つかり、幸子には泥棒と間違えられて追いかけられ(後に誤解は解ける)、「ご飯食べていくよね?」と美代子と幸子の3人で祖母の懐かしいエピソードを思い出し、話しながら食卓を囲む。包容力のある美代子と天真爛漫な幸子と久しぶりに過ごす時間は、拓也の決心を揺らすのに十分だったように思える。

 

 祖母が拓也の前に現れたのは、それを見越していたのかもしれない。まだ自分側には来ないでと願ったからこそ、拓也が帰ろうとするのを阻止して、美代子と幸子と共に過ごす時間を作り、過去に自分が拓也や美代子に言った言葉たちを思い出してほしかったのだろうかと感じた。