観劇感想『兼ね合い』 2019.9.7(sat)
とある家族の、とある休日を描いた物語。
一般的に演劇作品には台本があるが、ティッシュの会さんの作品は、ある一定のターニングポイントとどういう内容の話をするかという大まかな道筋だけ決めておき、そこに辿り着くまでの言葉は演じる回ごとに少しずつ変化するといった、あまり愛媛では見ない手法を取り入れて作品を創られている。故に、発する言葉は台詞というよりは会話寄りで、何度も通していけば多少は役として慣れるであろうけど、ほとんど自然な、日常で私たちが当たり前のようにする会話や反応を見ているように感じる。
父と母と娘の三人がゆるゆると家で過ごしている。お昼は出来合いの物を買いに行くか食べに行くかどうするかの決め方とか、父のテレビで得た情報を元に語られる蘊蓄や、娘の父親に対する態度とか、母の「鰻は絶滅危惧種だから食べるのは控えましょう」と言いつつ自分はちゃっかり食べている矛盾具合とか、何気なさが漂うやりとりに、私はこういう人種を知っている、寧ろ私も恐らくそっち側だ。と過去の家族とのやりとりを思い出し所々で共感しながら観ていた。人間の素のかけあいに凄く近く、明らかに創られたやりとりとはまた別のベクトルの面白さが浮き出てくる。
物語みたいに、ハッピーエンドかバッドエンドか白黒はっきりつかずに、モヤモヤした感情であったり後悔だったり「あの時本当は」みたいな想いが昇華されずどこかで折り合いをつけて、それでもまた変わらない日常を送り続けるのだろうなという終わり方が、人生の片鱗が凝縮されているようでとても良かった。