観劇感想『ツイノスミカ 夜更けの星』 2019.9.8(sun)
母と娘の、さよならの話。
恐らくそう永くは生きられない母親と、その母親と一緒に暮らす娘。名前で呼び合う二人は仲の良い友達のようで、だけど言葉の端々には親と子の境界線が垣間見える。対等のようで対等ではなく、恐らく色んな意味で娘は母という存在は越えられない。それをお互い知っている上で気兼ねなく接することができるから心地よい距離感が生まれる。
何年前の話なのかは分からないが、まだ母親が階段を上れる頃、娘は勝手に結婚して勝手に家を出たのにも関わらず離婚して勝手に実家に帰ってくる。色々言いたいことが母親にもあるはずなのに、娘の落ち込んでいる姿には弱いのか「何が食べたい?」と問う。ばつが悪そうな娘も堰を切ったように、恐らく好物であろう料理の名を挙げていく。
階段を上るのが難しくなった今、楽しそうに会話している中で、自分の死期を悟っているのであろう母が「来年はあなたがお茶を入れてね」という言葉と、娘の好きなお茶の淹れ方や今まで自分が綴ってきたレシピの在り処を教える。命を保つ為のレシピはこの世にいくらでもあるが、娘が知っている母親の味はそこにしかない、とても大切なことを伝え残していく。
娘が成長していく中で交わしてきた言葉を思い出し、歌を口ずさむ。最後に「バイバイ」と言ってこの世を去った母に対し、娘は「またね」と返す。「バイバイ」はもう二度と会えないような意味合いを感じるが、「またね」は次があるかのような印象で、亡くなった存在を切り離すのではなく、今まで母が与えてくれたかけがえのないものを自分の中に落とし込んで生きていくよと言っているような、そんな風に感じた。